執着魔法使いの美味しい求愛
　結局、行儀見習いというのも建前のようなものである。
　イリスの許可もおり、ティルサがルトヘルの屋敷へとやって来たのは、あの話を聞いてから五日後のこと。
　いつの間にかティルサの部屋まで用意されており、仕事で不在だったルトヘルに代わってノーラがあれこれと世話を焼く。
　そしてティルサに与えられた仕事は、温室の花たちの水やりだった。ここはルトヘルが管理している場所であるため、庭師たちも立ち入らないらしい。むしろ、そんな仕事をティルサが受けていいのだろうかという不安はあるが、行儀見習いという建前がある以上、何かしら仕事をする必要があるようだ。
「ティルサ、ただいま」
　もう一つ与えられた仕事が、帰宅したルトヘルを迎えること。
「お帰りなさい」
　そう言葉を返すだけなのに、ティルサは心がむず痒い感じがした。ここ何年も「お帰りなさい」は、イリスにしかかけたことがない言葉だった。
　ルトヘルの上着を預かろうとすると、彼はそのままティルサをぎゅっと抱きしめる。
「ただいま、ただいま、ただいま。帰宅して、ティルサが家にいるって、信じられない」
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