執着魔法使いの美味しい求愛
「マクシム。私は子どもではないのよ。自己紹介くらい、きちんと自分でできるわ」
 腰に両手を当て、男を怒鳴りつけている少女は、どこからどう見ても子どもだ。少なくともルトヘルよりは年下に間違いない。
「紹介が遅くなってごめんなさい。私は、ティルサ・フレーテン。フレーテン商会長の娘です。そしてこちらがマクシム。私のお目付け役ね」
 男は恭しく頭を下げた。ルトヘルから見ても、見目が整っている男である。
「ボクはルトヘル・シラーニ。今は、助けてくれてありがとう」
 シラーニの名に反応したのは、マクシムのほうだった。この男は、見目が整っているだけでなく、教養も身に着けているらしい。
「じゃ、ルトヘル。せっかくだから、私のおうちに来てね。お詫びにお菓子をご馳走するわ。あ、マクシムはそのビスケットを拾って片づけてちょうだい」
 これが、ルトヘルがティルサと出会った一幕であった――。
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