執着魔法使いの美味しい求愛
 歯を食いしばり、ティルサはじっとルトヘルのことを見つめた。気を抜いたら、涙が溢れそうだ。だが、ここで泣いてはいけない。
「ティルサは、オレのことを知りたいの?」
「知りたいに決まっているでしょ? どんな仕事をしているのとか。家ではどんな感じなのとか。好きな食べ物は、なんとなくわかるけれど……」
「母さんと仲良くしているのも、オレのため?」
「そ……、それは、そうよ。だから、お義母様からいろいろと教えてもらっているの」
「オレのために?」
 ルトヘルは困ったように笑っていた。だが、大きく手を広げてすぐにティルサを抱き締める。
「あぁ、やっぱりティルサは可愛い。オレのため? オレのためなんだね。母さんと仲良くするのも、父さんと話をするのも」
「それは、そうでしょ? だって、ルトヘルの両親ですもの」
 なんとか抱き締められた彼の胸と隙間をあけて、ティルサは答える。
「そうか。てっきりオレより母さんのほうが好きなのかと」
「それは、お義母様のことも好きだけれど。だけど、好きの種類が違うわ……」
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