執着魔法使いの美味しい求愛
   ◇◆◇◆

 ティルサが屋敷にいる。それだけでルトヘルの心は弾んだ。仕事中も間違いなく浮かれていた。というのも、同じ部屋にいる魔法使いたちが、怪訝そうにルトヘルを見つめていたからだ。
 ルトヘルの仕事は、魔法具や魔宝石に適切な魔法付与がされているのかを確認することが主だ。
 魔法具は人々の生活に馴染んでいるが、それを悪用している輩も少なくはない。必要以上の魔法を付与したり、逆に付与した魔法が不足していたり。そういったものが市場に出回らないように、定期的に各魔法具の抜き取り検査をしているのだ。
 今日もいくつかの不備が見つかった。いや、不備であればいい。
 中にはわざとそういった不正をした魔法具もある。そうなった場合、手続きが面倒だ。相手も反論してくるからだ。
 不備であった場合は、書類を魔法具の製造元と販売元に送り、是正処置を求める。それだけで済む。そして今日は、魔法具の検査とその是正処置依頼表をひたすら書いていた。
 むさ苦しい部屋で。
 だからティルサを見た瞬間、華やいだ気持ちになったのだ。
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