執着魔法使いの美味しい求愛
 名を呼ぶと、彼女はこちらに顔を向ける。
 彼女の口の前にデザートをのせたスプーンを差し出すと、かっと頬を赤く染める。視線が泳いでいるのは、前にいるオスクとノーラを気にかけているのだろう。
「ノーラ」
 オスクもルトヘルの真似をして、ノーラの口の前にスプーンを差し出したが、彼女は「ふん」とそっぽを向いてしまった。オスクは切なそうに目を細くして、そのスプーンを自分の口に運んでいる。
 その隙に、ティルサはパクリと口を開ける。
(可愛い……)
 ルトヘルの頭には、その言葉しか出てこなかった。
 もきゅもきゅと口を動かしている様子、それをじっくりと味わうかのような視線、全てにおいてが愛おしいのだ。
 そして彼女は知らない。
 たった一口のこのデザートにも、ルトヘルの魔力が込められていることを。
 先ほど、ルトヘルは彼女の魔力を放出させ、自身に取り込んだ。そして今、新たな魔力を食事に込めて、彼女へと注ぎ込んでいる。
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