執着魔法使いの美味しい求愛
第一章
 大陸の中央にあるトホテミ国は、四方を山に囲まれ閉鎖的な国である。だが、豊かな自然と、魔法使いと呼ばれる不思議な術を使う者たちによって、人々の生活は潤っていた。
 というのも、魔法使いたちは魔法を道具に付与することができるからだ。魔法を付与された道具は魔法具(まほうぐ)と呼ばれ、生活を便利にしていた。
 だが魔法使いとは誰でもなれるものではない。親から子へと継がれる魔力が必要なのだ。
 だからこそ、魔法使いは選ばれし高貴な職ともいわれており、彼らは魔法貴族とも呼ばれている。
 トホテミ国の王都シードマでは、数年前からフレーテン商会が売り上げを伸ばし、今やシードマにフレーテン商会あり、とも言われている。フレーテン商会は魔法具そのものも取り扱っているが、魔法具の材料にもなる魔宝石も売っている。
 魔宝石とは、魔力を込めることができる見目のいい石のこと。石の輝き、形、そして込めることができる魔力量。それらを総合的に判断して、価値がつけられるのだ。
 さらに魔宝石は宝飾品の一つでもあり、フレーテン商会の魔宝石いえば、求婚時に贈ってほしい宝飾品ナンバーワンであると、年頃の女性であれば、身分に関係なく夢見るものであった。
 そんなフレーテン商会長であるが、やっと一年前に男爵の爵位を授かった。その件はシードマでも有名な話であり、フレーテン商会を贔屓(ひいき)にしている客たちも喜んだものだ。
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