執着魔法使いの美味しい求愛
「父さん。いったいいつまでここに居座るつもりですか？　向こうは放っておいてもいいのですか？」
　つのる苛立ちを押さえ込みながら、ルトヘルは穏やかにオスクへと尋ねた。
「あら。そんなの決まっているじゃない。あなたたちの結婚式が終わるまでよ」
　オスクに尋ねたというのに、答えたのはノーラだ。
「これから、ティルサの衣装なども決めなければならないしね。男の人にとってはそうではないかもしれないけれど、ティルサにとっては、ねぇ？」
　そうやってノーラはすぐにティルサを味方につけようとする。それに、いつの間にかティルサのことを呼び捨てにしている。
　だが、ウェディングドレスの話題を出されてしまえば、ルトヘルも黙るしかない。
　ルトヘルも共に選びたいところであるが、夫となる者は式当日までそのドレスを目にしてはならないという決まりが、魔法貴族の中にはあるのだ。
　言い伝えはいろいろあるが、その伝えに反することはしたくない。伝統を重んじるわけではないが、ティルサにも魔法貴族には馴染んでもらいたいと思っている。
　たまには煩わしいと思える魔法貴族の肩書であるが、役立つときもあるのだ。
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