執着魔法使いの美味しい求愛
第五章
 ティルサがルトヘルの屋敷にやってきて一か月が過ぎようとしていた。
 ティルサの朝は、温室の花の水やりから始まる。朝食の前の時間に温室に行くと、必ずルトヘルがいた。
「おはよう、ルトヘル」
 ティルサが声をかけると、テーブルで書き物をしていたルトヘルは、顔中に笑みを浮かべて振り返る。
「おはよう、ティルサ。今日は、その赤い花には水をやらなくていいから。他をお願い」
「わかったわ」
 トホテミ国が過ごしやすいのは、魔法具によって整備されている環境である。
 例えば、こういった水汲みをする場合も、井戸から汲み上げるのではなく、川の水を各家まで引き、魔宝石によって浄化されたものを使っている。だから、ティルサ一人でも如雨露(じょうろ)に水を汲むことができるのだ。蛇口を捻れば、水道から綺麗な水が出てくるのだから。
 温室の草花に水をやると、しっとりと濡れそぼる葉や花びらが喜んでいるように見えるから不思議だった。
 それを口にすると、ルトヘルは言う。
「喜んでいるように見えるのではなく、彼らは実際に喜んでいるんだ。どうやらティルサは気に入ってもらえたようだね」
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