ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「たった三年だろ。愛した女を忘れるはずない」

 ドクンと大きく心臓が跳ね、膝から崩れ落ちそうになってしまった。

(黎治さんは、やっぱりズルい男だ)

 悪気なく、簡単に、琴音の心中に嵐を起こす。まるであの夜の台風みたいな。

(でもダメよ、琴音)

 ゆるゆると首を横に振って、琴音は心の静寂を取り戻す。

(黎治さんには奥さまがいる。私にも、守るべき蓮と凜が……もう恋心なんて不要なもの)

 琴音はどうにか口角をあげて、彼を見る。

「黎治さん、イギリスでご結婚されたと聞きました。本当におめでとうございます」
「――は?」

 彼が目を見開く。次の瞬間、「永瀬機長!」と彼を呼ぶ声が届いた。

 黎治と同じ紺色の制服に身を包んだ男性がこちらへ歩いてくる。おそらく、次のフライトでペアになる副操縦士だろう。旅客機のパイロットはふたり一組でフライトに臨む。機長と副操縦士が組むのが一般的だ。機長は黎治なので、こちらに向かってきている彼のほうが副操縦士、のはずだ。

「それでは、私はこれで!」

 まだなにか言いたげな黎治の視線を振りきって、琴音は逃げるようにその場から立ち去った。

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