ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「琴音ちゃんはいい子だから、気づいていなかったよね? 私、あのとき……琴音ちゃんにものすごく嫉妬してた」
「え?」
「私はみじめに捨てられたのに、琴音ちゃんだけズルい。『おめでとう』なんて言えるわけないって……思ったわ」

 彼女は痛々しい苦笑いを浮かべた。

「ほんと、最低だよね。だけど、ふたりの幸せをどうしても受け入れられなくて、永瀬コーパイは絶対に遊びだって自分を納得させた。琴音ちゃんのためだからって言い訳して、ふたりの邪魔を……しちゃったの」

 当時の舞の言葉に、そんな思いが隠されていたとは思ってもいなかった。もちろん驚きはしたが、怒りや恨みは湧かない。舞の苦しかった気持ちは理解できるし、そもそも……。

(黎治さんの愛情を信じきれなかったのは、私の問題だもの。誰になにを言われても、彼を信じる強さが自分にはなかった)

 舞は苦しそうに言葉を続けた。

「その一件でようやく、自分の精神状態は思っているよりやばいんだなって自覚した。真剣に治療しないといけないと理解して、航空業界から離れる決意をしたの」

 舞はまっすぐに琴音を見てから、深々と頭をさげた。

「琴音ちゃん、本当にごめんなさい。自分の治療なんかより、真っ先にあなたと永瀬コーパイに謝罪すべきだったのに……なにも言わずに逃げた。ごめんね、ずっと謝らないといけないって……」

 膝の上で硬くにぎったこぶしに、彼女の涙が落ちる。
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