高嶺のパイロットは、秘密の双子とママを愛で倒す~地味な私が本命だなんてホントですか?~
五 君の見あげる空だから
五 君の見あげる空だから


 思えば、最初から彼女は特別な女性だった。

 空に飛び立っていく飛行機を、琴音はいつもキラキラした瞳で見つめていた。あの瞳に、自分を映してほしい。そう思うようになったのは、初めて彼女に声をかけた台風の日よりもずっとずっと前のことだ。

 だが自分は、溺れるほどに愛した彼女の手を放してしまった。

『彼女には彼女の人生があります。あなたのエゴで振り回さないであげてください』

 琴音の先輩が発したあの台詞が、理由のすべてだ。

 イギリスのエアラインへの出向。それが本決まりになったとき、黎治が真っ先に考えたのは琴音のことだ。離れたくない、そう思った。

 ずっと気になっていた彼女とようやく親しくなれた。これからもっと愛を深めていける。

 そんなタイミングで遠距離になるのは不安だった。まだ関係が浅いが、思いきってプロポーズをするか。だが、彼女はきっと整備士の仕事を続けたいはずで……。

(先走って、勝手にイギリスの整備士の求人を調べたりしたんだよな)

 当時を思い出し、黎治は苦笑する。

 でも、彼女に一緒に来てもらう選択肢は現実的ではない。少し考えれば、すぐわかることだ。

 出向という形なので、黎治は数年後には日本に戻ってくる。その数年のために、琴音が現在の会社、BBLメンテナンスをやめるのは得策とはいえないだろう。

 結局、琴音の意見を聞くのが一番だという当たり前の結論に達して、彼女と話をすることに決めた。

 ところが、自分の気持ちを伝えるより先に黎治は振られてしまった。

 琴音は整備士をやめ、地元で結婚すると言ったのだ。

 正直、半信半疑ではあった。琴音の表情から、どこかに嘘が交ざっているような気はしていた。

 だがたとえ嘘でも、彼女が整備士をやめると宣言したことがショックだった。

 飛行機は、自分と彼女を繋ぐ絆そのものだと思っていたから。

『君の飛行機への熱意は、そんなものだったのか?』
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