ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 勝手に裏切られた気分になって、琴音の事情も考えずにそんな言葉を投げつけてしまった。

(整備士をやめるなら、俺についてきてくれてもいいじゃないか)

 そんな傲慢な言葉も喉元まで出かかっていた。

『あなたのエゴ』 

 本当にそのとおりだ。自分はイギリスのエアラインに行きたい。パイロットとしての腕を磨いて、もっともっと飛躍したい。

 自分の未来は決して曲げず、そのくせ、琴音に寄り添ってもらうことを無意識に望んでいる。

 その愚かさに気づいてしまったら、もう彼女を引き止められなかった。

 自分との関係を終わりにする。彼女のその決意の裏にどんな思いがあったのか……黎治は知ろうともしなかった。

 琴音への未練を断ち切るように、黎治はイギリスへと旅立った。

 遠く離れた地で過ごせば、いつかは気持ちも薄れていくだろう。そう期待したけれど、簡単にはいかない。

 空は繋がっている。パイロットという仕事は、それを毎日実感するのだ。

 たとえ整備士をやめていたって、琴音が飛行機を嫌いになるはずはない。だから……今も、彼女と自分は同じ空を見あげているかもしれない。

 そんなふうに考えるたびに、黎治はまた空を好きになり、琴音を忘れられなくなった。

「永瀬さ~ん」

 トーンの高い女性の声に呼びかけられ、黎治はハッと我に返る。
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