ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 ここは、空港内にあるBBLのオフィススペース。

 打ち合わせスペースの一角で、これから例の雑誌の取材に応えることになっているのだ。

 イギリスのエアラインでの経験を聞かせてほしいとのことだったので、なにを話すか頭のなかを整理しているつもりだったのだが……気がつけば黎治の思考は琴音でいっぱいになっていた。

(イギリス……もちろん仕事は真面目にやっていたが、こうして振り返ってみると琴音への未練一色の日々だったな)

 心底かっこ悪いとも思うが、そんな自分が嫌いではない。しつこく思い続けたからこそ、琴音と蓮と凜、四人で暮らす未来を手に入れることができたのだから。

(今度こそ……なにも諦めたりしない。自分と琴音のキャリア、家族の幸せ。すべてを手に入れる)

 約束の相手が、小走りでこちらにやってきた。
 
 ロングヘアに白いスーツ、ファッションもヘアメイクも少し派手な雰囲気の女性。

「お待たせしてしまって、すみませんでした」

 いやに甘ったるい声を出す彼女――櫻木沙里が黎治を取材する、航空専門誌の記者だ。

 といっても今の編集部には異動してきたばかりだそうで、この業界や飛行機への知識はお世辞にも豊富とはいえないレベルだが。

(いや、琴音を基準にしてはいけないよな。彼女くらいの認識が世間の普通なんだろう)

 取材対応は今日で二度目。面倒なことに、もう数回はこちら来ることになりそうだと聞いている。
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