ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「大丈夫ですよ。向こうのエアラインでの経験を……とのだったので、なにを話すか考えていたところです」
「わぁ。お話、とっても楽しみです!」

 彼女の質問に答えていく形で、三、四十分ほど話をした。オフィスの壁にかかっている時計に視線を向けながら、黎治は言う。

「すみません。今日はここまでで。そろそろフライトの準備がありますから」
「どちらへ行かれるんですか?」
「今日はパリです」
「きゃ~かっこいいですね!」

 パイロットの仕事でもっとも集中力を要するのは、離着陸の瞬間だ。なので、フライト数をこなさなくてはならない国内線の担当日のほうが実は大変だったりもするのだが……世間的にはやはり国際線のほうがエリートっぽく見えるのだろう。

「ありがとうございます。では」

 黎治はビジネスライクな笑みを返して、席を立った。

 オフィスから廊下に出たところで、もう一度沙里に呼びかけられた。

「なにか?」
「その……パイロットのお仕事、個人的にも興味深いな~って。もう少し、ゆっくりお話を聞かせてもらえたら嬉しいです! オフィスではなく、食事でもしながら」

 声音と表情から、そういう意味のアプローチなのだとは察せられた。だが、琴音以外の女性に興味などない。

「申し訳ありませんが、取材はオフィス内のみにさせてください。プライベートの時間は大切な相手と過ごしたいので」
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