ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 彼女の眉がピクリと動き、やや険のある表情に変わる。彼女のプライドの高さが垣間見えた気がした。

「恋人ってことですか?」
「えぇ。長年、思い続けた女性にやっと振り向いてもらえたんです」

 かつての自分なら、もっと角の立たないスマートな言い方をしていたと思う。

 そういうソツのなさが、『プレイボーイ』なんて評判に繋がってもいた。でも現在の黎治は琴音以外の女性の感情を気にする余裕など、まったくない。自分の時間、心、持てるすべてを琴音に捧げたいと思う。

 不満そうな沙里に背を向け、黎治は歩き出した。

 パリの空港を離陸して、十三時間と少し。

 黎治はコックピットのなかで操縦桿を握っていた。パイロットは機長と副操縦士がふたりで組んでフライトに臨む。ひとりがPF――操縦担当、もうひとりはPM――モニターチェックや通信を担当する。黎治は今日、PF担当だ。

 目的地である首都国際空港はもう目の前。

(そろそろ着陸だ)

 前方の大きな窓――ウインド・シールドを見つめ、表情を引き締めた。

 離着陸の瞬間はパパイロットの腕の見せどころ。もっとも難しく、事故が起きる可能性も高い場面だ。集中力と冷静な判断が必要とされる。おまけに今夜は――。

「荒れてますね」
「あぁ」

 副操縦士の声にうなずく。今夜は非常に風が強く、ランディングの難しい気象だ。

(だが、これくらいなら……)

「大丈夫だ。着陸準備に入る」
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