ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 一緒にランチをしながら現場の声を聞かせてほしいということで、そんなに急ぎの用とは思えないのだが……パワハラとは無縁な性格の彼が『どうしても』と懇願してきた。

(現場の声、か。なにか急ぎで調査したい案件があるのかもな)

 そう考えて、承諾した。

「承知いたしました。長時間でなければ大丈夫です」

 双子が眠ってしまう前までには、絶対に琴音のところに行きたい。そこだけは確約してもらって、黎治は電話を切る。そのまますぐに琴音にも連絡して事情を説明した。

 翌日。社長に指定された店は銀座の料亭。

 酒を飲む可能性を考慮して、地下鉄を使った。店から一番近い出口を出たところで、誰かに声をかけられた。

「永瀬さ~ん!」
「……櫻木さん?」

 航空専門誌の記者、沙里がそこにいた。

「びっくりしました、奇遇ですね」

「うふふ。偶然じゃありませんよ。永瀬さん、これから『音羽(おとわ)』に行かれるんでしょう? 私もなんです」

 黎治の向かう料亭の名をさらりと言い当てて、彼女は意味ありげに口元をほころばせた。
< 110 / 121 >

この作品をシェア

pagetop