ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「前にも少しお話しましたよね? 俺の最愛の恋人です」
「えっ、じゃあ……私との縁談は?」

 納得いかないとでも言いたげに、彼女は眉根を寄せた。

「縁談なんて、俺は受けた覚えがないんですけどね」

 黎治は肩を落として、ため息をつく。

 先日の会食、黎治は社長とふたりのつもりで行ったのだが、実際には沙里とその父親もいた。彼女の父はBBLのメインバンクの頭取だから、社長とは旧知の仲。

(はっきり言って、ひどく不愉快な時間だったな)

 約束をした以上、怒って帰るわけにもいかない。そう思って参加はしたが、まるで沙里とのお見合いのような場だったのだ。

 騙しうちのようなマネをされ、黎治は沙里に激しい嫌悪感を持ったが……それは彼女には伝わっていなかったようだ。むしろ、自宅に誘われたことで、彼女は黎治も縁談に乗り気になったと解釈していたのだろう。

「今日、来ていただいたのはこれを伝えるためでもありました」

 黎治は彼女を見つめ、はっきりと告げる。

「あなたとの縁談は、丁重にお断りさせていただきたい」

 ガタンと沙里はテーブルを叩いて、身を乗り出す。

「なっ……私は頭取の娘なのよ? いくら優秀なパイロットだって、所詮は会社員でしょう? BBLの社長の顔をつぶしていいわけ?」

 彼女はもう取り繕うのをやめたようだ。本来の性悪な顔で、黎治をにらみつけてくる。
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