ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「うちの社長の顔をつぶしたのは、櫻木さんのほうですよね?」

 あの日、端的に言えば社長も沙里に騙されたのだ。食事を終えたあとに、黎治から真実を聞いた彼はひどく驚いていた。

『えぇ? 仕事で知り合って、ふたりがすごくいい雰囲気になっていると聞いたから……じゃあ、私がひと肌脱いであげようかと協力したのに。いい感じじゃなかったってことかい?』

 沙里は自分の父親に『取材相手のパイロットと絶対に両想いなんだけど……真面目な彼は仕事相手をデートに誘うようなマネはできないと言っている』というような話を吹き込んだようなのだ。

 つまり、頭取と社長は、奥手なふたりをお膳立てするつもりであの会食をセッティングした。

 食事の最中、頭取はどうやら黎治を気に入ってくれたようで前のめりに結婚をすすめてきた。ようするに、沙里は黎治が断れないよう外堀を埋める作戦に出たのだ。

「メインバンクの頭取が乗り気になったら、うちの社長もNOとは言えない。そう考えたわけでしょう?」

 黎治の冷たい口調に、沙里は「うっ」と口ごもる。図星なのだろう。ずいぶんと浅はかな女性だ。

「あいにくですが、BBLの社長は部下にそんなパワハラめいた強要はしません。ほかに大切な女性がいると説明したら、納得してくれました」
 むしろ『会食の件も、早とちりして申し訳なかった』と謝罪してくれたくらいだ。
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