ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「で、でもっ。永瀬さんにだって、悪い話じゃないでしょう? 櫻木と姻戚になれば、職場での立場は安泰になるわよ」
「愛してもいない女性と結婚してまで、安泰を手に入れたいとは思いませんね」

 黎治の声はどこまでも冷たい。横から和志も口を挟む。

「そんなことしなくても、パイロットとしての黎治の腕が確かなのは社内の誰もが認めるところだし……」
「お付き合いのある銀行も、ひとつではないですしね」

 桜もそんなダメ押しをする。

 ふたりには、沙里をこらしめたいといったような話はいっさいしていない。ただ、『記者にプライベートの様子を取材したいと頼まれて。女性とふたりきりになるわけにはいかないから同席してくれ』とお願いしただけだ。

 けれど、人のよすぎる和志はともかく……聡明な桜は途中から黎治の意図を察してくれたように思う。沙里に向ける笑顔がどことなく冷ややかだ。

「だって……絶対に私のほうが……なんで琴音ちゃんなのよ」

 素直に謝罪することもなく、沙里はブツブツと不満を漏らす。

 そのとき、四人のいたリビングにインターホンの音が響いた。黎治はスッと立ちあがる。

「あぁ、来たみたいだ」
「き、来た?」

「記事を書くに当たって、なにか核になるようなエピソードが欲しいとおっしゃっていましたよね?」

 黎治はチラリと沙里に視線を送ってから、胸ポケットに入れてあった小さな箱を取り出す。
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