ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「今から、琴音にこれを渡して正式にプロポーズをするんです。もしよかったら、記事にしてくれてもいいですよ」

 どこか意地悪にほほ笑んだ黎治に、沙里は顔を真っ赤にした。

「そ、そんな屈辱的なシーンを見たいわけないでしょう? 私はこれで、失礼します!」

 怒りに任せてドスドスと足音を立てて、彼女は去っていった。

(少しやりすぎたかな? いや、当然の報いか)

 彼女の悪行がだまし討ちの縁談だけなら、黎治もここまではしなかっただろう。だが、彼女には何度も何度も、琴音の心を傷つけた前科がある。

(これにこりて、二度と琴音に近づかないでほしいものだな)

◇  ◇ ◇

 指定された時間ちょうどに、琴音は黎治のマンションのインターホンを鳴らした。

 押しているベビーカーのなかでは双子がパパに会えるのを心待ちにしている。

 応答を待っていると、オートロックのガラス扉の内側から誰かが勢いよく駆けてきた。

「えっ、沙里ちゃん?」

 琴音はそう呼びかけたけれど、彼女が琴音を避けるようにして走り去ってしまった。

(な、なにがあったんだろう?) 

 銀座で沙里と黎治を見かけたあの日。

 落ち込みかけたけれど、舞と双子に励まされて琴音は黎治と向き合う決意をした。
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