ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 妊娠がわかったとき、彼との関係をすっぱりと絶つために転職すべきか迷いはしたのだ。だが、新しい職場では育児休暇を取得できるかもわからないし、まずは無事に出産することを優先させた。

 産まれたあとは双子の育児に忙殺され、転職を考える余裕などなくなり……現状維持のまま時を過ごしてしまった。

(きちんと考えておくべき問題だったのに)

 琴音は下唇をキュッと噛む。

 イギリスの航空会社に行ったといっても、黎治はBBL航空所属のまま。いつか帰ってくるのは既定路線だった。

 頭の片隅に引っかかってはいたのに、行動できなかった。いや、もしかしたら心の奥底で彼との繋がりを絶ちたくないという浅はかな未練があったのかもしれない。

 今日は偶然そうなったが、仕事で彼と関わる可能性自体はそう高くない。けれど、黎治が自分を覚えていたとなると話が変わってくる。

 双子と一緒のところを見られてしまったら? 蓮と凜は、どう見ても琴音ではなく黎治似だ。

(どうしよう……今からでも転職? できなくはないだろうけど、ふたりがやっと保育園に慣れたところなのに?)

 思考は行ったり来たりするばかりで、ちっともまとまらない。自分に気合いを入れるため、琴音は両の頬を軽くはたく。

(しっかりしなきゃ。蓮と凜に、不安な顔は見せられない)
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