ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「モデル並みの美女が山ほどいるこの職場で、そんなモテモテの男性が私と……なんて冗談にしても無理がありますよ、舞さん」
「そんなことないって! 琴音ちゃんは派手じゃないだけで綺麗な顔をしてるし、性格も今どき珍しい純粋さだからお姉さんとしては心配なのよ」
「いやいや……」

 彼でなくても、パイロットはみな選りすぐりのエリートで女性人気の高い職業だということは、世間のあれこれに疎い琴音でも知っている。顔に油汚れをつけている、地味な自分に目を留めるパイロットなどいるはずがない。

(永瀬黎治さんか。まぁ、名前を覚えたところで、呼ぶ機会なんて訪れないだろうけど)

 けれど彼の名前は、あの美しいトリプルセブンの雄姿とセットで琴音の胸に刻まれた。

 それから数か月。

 気がつけば、彼はすっかり琴音の〝推しパイロット〟になっていた。

『今日の機体は一段とかっこいいな~』

 そう感じたとき、機体の操縦桿を握っているのは決まって黎治だったから。彼は日本一、飛行機を輝かせるパイロット。琴音はそう思っている。

 言葉を交わしてみたいとか、自分を知ってほしいとか、そんな大それた野望は抱いていない。だからきっと、この気持ちは恋ではない。

(アイドルを応援するファン……が一番近いのかな?)

 彼の操縦する飛行機を見ることができた日は、それだけで幸せ。
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