ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
(なんだろう、心臓が痛いような……でも不快なわけじゃなくて……)

「あ、でも名前は知らない。聞いてもいいか?」
「はい、池田琴音と申します。BBLメンテナンスの整備士になって五年目です」
「琴音。綺麗な名前だな」

 ハンドルを握りながら、彼はそんなふうに褒めてくれた。さすがプレイボーイなだけあって、会話上手だ。あっという間に琴音の緊張をほぐしてしまう。

 車が自宅に近づく頃には、琴音も自然な笑顔を返せるようになっていた。

「マンションの前に停めていいか? もし、見られて困るような相手がいるなら少し離れた場所にするけど」
「見られて困る……?」

 反応の鈍い琴音に、彼はクスクス笑って解説してくれる。

「同棲中の彼氏がいるとか、そういう状況だったらまずいだろう?」
「あ、あぁ!」

 やっと、彼の気遣いの意味を理解できた。琴音はブンブンと首を横に振る。

「恋人なんていたことないので、そういう心配はまったく!」

 彼はクスリと笑って、ハンドルを右に切る。すると、琴音の暮らす1DKのマンションが見えてきた。

「――それは好都合。ひどい暴風雨だから、できるだけエントランスに近づけるぞ」

(好都合? どういう意味だろう?)

 彼は謎めいた言葉をつぶやいて、車をマンション前の路肩に停めた。

「本当にありがとうございました」

 その琴音の台詞にかぶせるように彼は言う。
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