ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「さっきの、恋人いたことないって……本当? もしかして作らない主義?」

(あ、これ絶対……引かれるパターンだ)

 それは察したけれど、彼に嘘はつきたくなくて、琴音は正直にうなずく。

「――はい。でも、作らない主義じゃなくて、ただできないだけですけど……」

 二十代半ばにもなって処女。人に話すとこれだけでも驚かれるのに、キスも未経験。

 もっといえば……男性を好きだと思ったことも一度もない。

 これは小さいようで大きなコンプレックスとして、琴音を苛んでいた。普通の成人男性にとっては、恋愛経験のない女など面倒なだけ。そんな話を耳にするたび、ますます自信を失ってしまう。

「この年齢でキスすら経験ないって……やっぱり変ですよね?」

 道化になって、琴音は自虐的な笑みを浮かべた。こういう空気になったとき、相手に気を使わせない方法をそれしか知らないから。

「まずいって自覚はあるので、どうぞ笑ってやってください」

 けれど、彼は笑ったり引いたりしなかった。
 真剣な瞳が琴音を射貫く。

「そんなふうに自分を卑下するのは感心しないな。つまらない女になるぞ。せっかく君は魅力的なのに」

 リップサービスとわかっていても、嬉しくて胸が震えた。

(私の推しパイロットは、操縦技術だけじゃなくて中身も素敵な人だ)

 ふいに、視界が狭くなった。

(――え?)
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