ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 シートベルトを外した彼が覆いかぶさるように、助手席の琴音に近づく。

 彼の指が琴音の顎を持ちあげ、まるでキスするような距離に美しい顔が迫ってくる。

「それとも、俺に奪ってほしくて言ってる?」

 NOならストップしてやる。彼はそう言ってくれたのに、琴音は一度もNOの意思表示をできなかった。

(彼に触れてみたい、触れてほしい)

 二十六年の人生で初めて、本能が理性を上回った。あらがえない衝動に突き動かされるように、琴音は彼に身を委ねる。

 ダークブラウンを基調にした落ち着いたインテリア。広々としたリビングスペースには大きなL字のソファが置かれ、背の高いガラス窓からは都心の夜を見おろすことができた。

「この天候じゃなきゃ、そこそこの夜景が楽しめたと思うんだが残念だったな」
「いえ……」

 都心の高級シティホテル。旅先でちょっと宿を奮発することはあっても、こういう場所は恋人のいない琴音には無縁で……好奇心からついキョロキョロしてしまう。

「い、いかがわしいホテルとかじゃないんですね」

 思ったことをそのまま口に出すと、黎治はぶはっと楽しそうに破顔する。

「ずいぶんと古風な言葉を出してきたな」

 彼は身体ごとこちらに向き直ると、大きな手で琴音の両頬を包んだ。

「いかがわしいホテルに興味があった? なら、次はそういうところに行くか」

 いたずらに瞳を輝かせて、琴音の顔をのぞく。
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