ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「あっ、はぁ。黎治さん、気持ちいいっ」
「うん、俺もだ」

 とびきり幸福そうに笑んで、彼は優しく琴音を抱き締めた。多幸感に満たされ、今、自分は世界で一番幸せな女なんじゃないかと本気で思う。

(すごいな、黎治さんは。こんな私を……物語のヒロインにしてくれる)

 ものすごく大胆なことをしてしまったのに、後悔はみじんもない。彼にとっては、ほんの気まぐれ……いや慈善事業みたいなものだろうか? だから、二度は起きない奇跡だというのも理解している。

(それでもいい。黎治さんがプレゼントしてくれたこの夜は、きっと私の人生の宝物になる)

 琴音はそう確信して、彼の情熱を受け止めた。
 
 ベッドに寝転んだままの琴音を彼はギュッと引き寄せ、その胸に抱きすくめた。黎治の温かな手が乱れていた琴音の髪をさらりと撫でる。

「大丈夫か? どこか痛んだりしない?」

 コトが済んだあとも、黎治は冷めた顔などまったく見せない。身体を優しく気遣ってくれるその様子に思わず胸がキュンと鳴る。

(なるほど、モテる人は最初から最後までずっと優しいのね)

 彼の言動には感心させられてばかりだ。

「全然、大丈夫です。昔から痛みには強いほうなので!」

 琴音が言うと、彼は眉根を寄せて顔をしかめる。

「つまり、痛むってことじゃないか。おなかか?」

 おなかをさする手つきがとても優しくて、琴音はふっと顔をほころばせる。
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