ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 それから、ふた月。

 恋人なんて自惚れるつもりはない。遊び相手と呼んでもらうのすら、おこがましい気がする。だけど、パイロットと整備士よりはもっとずっと近しい関係……にはなれているように思う。

【さっき、シドニーから戻ってきた。会いたい】

 夕方六時。仕事を終えてロッカールームで着替えをしていた琴音は、スマホに届いた黎治からのメッセージに思わず顔をほころばせる。文字を追っているだけなのに、耳元で黎治の声が聞こえるような気がした。

 国際線乗務も多い彼と、夜勤のある琴音。生活はどうしてもすれ違うので、しょっちゅう会えるわけではないけれど……彼はフライトから戻るとこんなふうに必ず連絡をくれる。

(無事に帰ってきてくれて、よかった)

 ニヤニヤしすぎていたのかもしれない。琴音よりひと足先に着替えを終えた様子の舞に、突っ込まれてしまう。

「そんなに嬉しそうな顔して……琴音ちゃん、彼氏できたんでしょう?」
「そ、そんなんじゃありませんよ」
「隠さなくていいわよ。もう全開で恋する乙女の顔をしてるもの」

 指摘され、琴音は顔を赤くする。信頼する先輩である舞に嘘はつきたくないので、正直に打ち明けた。

「好きな人は……できました。でも、彼氏ってわけじゃないので」
「なるほど。告白はこれからってとこなのね。一番楽しいときよね~」
「あ、は、はい。まぁ」

 自分が彼の恋人になれるとはとうてい思えない。でも、それを言ったらきっと舞が心配するだろう。そう考え、琴音は曖昧にごまかした。だが、鋭い彼女はなにか勘づいたようだ。

「え? まさか、変な男に引っかかったりしてないわよね」
「だ、大丈夫ですから。それじゃ、お先に失礼します!」
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