ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 いぶかしげに眉をひそめる彼女に背を向けて、琴音はロッカールームを出る。

 空港と私鉄の駅、その敷地の境目にある某チェーンのカフェ。黎治に指定されたその店に、琴音は息を切らせて駆けつける。自分のほうが早いと思っていたが、彼のほうが先に着いていた。

「琴音!」

 片手をあげて、黎治が自分を呼ぶ。

「黎治さん、おかえりなさい」

(ふたりで会うのは、四回……ううん、五回目かな?)

 琴音は彼の向かいに腰をおろすが、どうにも落ち着かず周囲をキョロキョロしてしまう。

「あの、お店を移動しなくて平気ですか? ここ、BBLの関係者がたくさん通りますよね? 誰かに見られたら……」
「なぜ? 悪いことをしているわけじゃないし、別に誰に見られても構わないよ」

 堂々とした黎治の答えが嬉しくて、頬が緩む。彼はビジネスバッグの外ポケットから小さな包みを取り出してテーブルの上に置く。

「はい、シドニー土産。ベタベタに甘いクッキーだ」
「わ、私に?」
「ほかの人間への土産を、君の前に置くはずがないだろう」

 黎治はクスクスと笑う。

「ありがとうございます!」

 彼から注がれる甘い眼差しに琴音の胸が高鳴る。

(黎治さんは私の好きな人。でも恋人にはきっとなれない……そう覚悟していたつもりだけど)

 今度は甘い高鳴りではなく、鈍い痛みが胸を貫く。
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