ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
(どんどん欲張りになって、期待してしまいそうになる自分が……少し怖い)

 翌日の琴音の仕事が早番だったため、今日はお茶をしただけで黎治は琴音を自宅まで送り届けてくれた。

「おやすみ」

 言って、彼は琴音の頬に唇を寄せる。

「ひゃあ」

 琴音は顔を赤くして、キスされたその場所に手を当てる。

「あんまり、かわいい顔を見せるなよ。押し倒したくなるだろう?」
「お、押しって……その!」

 琴音の頬はますます真っ赤に染まる。ククッとおなかを抱えて、黎治は続ける。

「大丈夫、今日は我慢するから。その代わり、次に休みが重なったときは一日デートしよう。……大事な話もあるから」

 黎治の瞳がいつになく真剣な色を帯びる。

「連絡する」
「は、はい。おやすみなさい」

 自宅マンションに入った琴音は、玄関扉に背中を預けてふぅと細く息を吐いた。

(大事な話ってなんだろう? もしかして……)

「好きだ、付き合ってくれ」
「愛してるよ、琴音」

(いやいや、先走りすぎ!)

 脳裏に浮かんだ都合のいい妄想を、琴音は慌てて追い払う。だけど、妄想すべてを追い出すことはできなくて、心の隅っこに期待が残る。

(だってプレイボーイな雰囲気なんか……全然ないんだもの)

 琴音の目に、彼はとても誠実な男性として映っていた。
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