ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 琴音も舞も、付き合いでトイレに同行するタイプではない。なので途中で別れて、琴音はひとりでトイレに向かう。

 用を足して個室から出ると、洗面台にBBL航空のCAふたりが並んでメイク直しをしていた。

「あれ、立候補した? イギリスのエアラインへの出向の話」
「しなかったです~。私が選ばれるはずないし、最初から諦めモードでした」

 彼女たちがなんの話題で盛りあがっているのかは琴音にもわかった。

(イギリスのLTK航空との提携の話かな?)

 近年の航空業界は、エアラインの枠組みをこえた連携が活発だ。BBL航空も例外ではなく、イギリスの航空会社との提携が決まっている。その一環として、パイロットやCAを交換派遣する制度が運用されるらしい。これは日本の航空会社としてはかなり珍しい試みとのことで、パイロットもCAも希望者が殺到していると聞いていた。

「パイロットのほうはもう決まったそうよ」

 先輩らしきCAが、華やかなローズカラーのリップを塗りながら言う。

「あ、私も聞きました~。永瀬コーパイが行っちゃうって本当ですか?」

 後輩と思われる彼女の返事に、琴音の心臓がドクンと大きく跳ねた。手を洗う水の音がいやに不穏に響く。

(永瀬……珍しい名字ってほどじゃない。でも、副操縦士にふたりもいるかな?)
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