ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「残念ながら、本当です。むしろ彼以上の適任者はいないでしょう? BBL史上もっとも優秀なパイロットと言われているんだから」

 それを聞いて、ふたりの言う『永瀬コーパイ』は黎治だと確信してしまった。

(黎治さんがイギリスに……?)

 琴音の動揺など知る由もない、ふたりの会話は賑やかに続く。

「彼がイギリスに行ってしまうなんて悪夢としか思えません! いつか同じフライトになることを夢見て、ここまでがんばってきたのに……」
「しかもさ、彼がイギリス行きのメンバーに選ばれたのは結婚準備のためだって噂もあるのよ」
「えっ、結婚?」

 甲高い声をあげた彼女以上に、琴音も衝撃を受けていた。メイクを直すふりをして、ふたりの会話に耳をそばだてる。

 どうやら黎治とBBL航空の社長令嬢との間に縁談が持ちあがっているらしい。そのご令嬢が現在イギリスに留学中で、黎治がイギリス拠点になればちょうどいいということで……この人事には社長の意向が強く反映されているのだそう。

「え~。永瀬コーパイ、社長令嬢と結婚しちゃうんですかね?」
「そりゃそうでしょ。天才パイロットといっても会社員だもの。社長の心証を悪くするようなマネはしないわよ。それに、桜さんに不満がある男性はいないと思うし」

『桜さん』それが、黎治の縁談相手の名前のようだ。

「やっぱり、そんなに綺麗な方なんですか?」
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