ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「……もしかして永瀬コーパイのこと?」

 ぴくりと、琴音の肩が小さく跳ねた。いくらなんでも、察しがよすぎる。琴音は不思議に思って舞の顔を見つめる。
 彼女は顔の前で手を合わせて「ごめんっ」とつぶやいた。 

「実は昨日、私……見ちゃったのよ」
「え?」
「琴音ちゃん、永瀬コーパイと一緒にいたでしょう」

 あのカフェで、黎治とふたりでいるところを舞に目撃されていたらしい。

「琴音ちゃんの好きな人って、彼?」

 琴音はこくりとうなずく。

「付き合ってるの?」

 今度はふるふると首を横に振る。初めての夜と、そのあとも一度、彼に抱かれてはいるけれど……それだけだ。『かわいい』とは言ってくれたけど『付き合ってほしい』とは言われていない。

「多分、私の片思いです」

 それを聞いた舞が、はぁと大きく肩を落とす。

「遊ばれてるってこと? その様子だと、イギリス行きの話も聞かされていなかったのよね?」

 情報通の舞は当然のように、BBL航空からイギリスに行くパイロットメンバーも把握しているようだ。

(てことは、黎治さん本人はもっと前から知っていたはずよね。もしかしたら、私に声をかけてくれたあの日には、すでに決まっていたことだった?)

 琴音はイギリスに行くまでの短い時間の遊び相手。だから出向の話を報告することすらしなかった。舞はきっとそう思っているだろうし、実際……客観的に見ればそのとおりだ。

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