ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 胸がズンと重くなる。小さな傷がジワジワと広がっていくような、嫌な痛みを覚える。

(恥ずかしいな、私)

 遊び相手を名乗ることすらおこがましい。そうやって予防線を張って、関係をはっきりさせることから逃げていた。そのくせ、いざこういう状況になってみれば……一丁前に傷ついて失恋しましたって顔をする。そんな自分の弱さが情けない。

「余計なお世話を承知で言うけど、もう引いたほうがいいと思うわ」

 舞の言葉は静かに、重く、響いた。

「意地悪で言ってるんじゃないのよ。私の……実体験からのアドバイス」
「実体験?」

 カップのお茶をひと口飲んで、彼女はどこか自虐的な笑みを浮かべた。

「私もね、パイロットと付き合っていたことがあるの。もう二年前になるかな?」

 二年前なら、ちょうど琴音が舞と親しくなった頃だ。でも、そんな話は一度も聞いたことなかったので驚いた。

「相手はBBLじゃなくて、他社のパイロットだったけど」

 彼女はBBL航空の一番のライバルでもある、同業他社の名前をあげた。

「一年半、付き合ってたんだけどね」

 そこで彼女は言葉を止め、ぷっと噴き出す。

「そう思ってたのは、私だけだった。彼、別に本命の恋人がいて、私はただの浮気相手」
「そんな……」

 琴音は眉をひそめる。
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