ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 琴音の脳裏に懐かしい顔が浮かぶ。だが、すぐに双子の賑やかな声に押し流された。

「うぇ~ん」
「レンがわるい! リン、わるくないもん」

 グスグスと泣く蓮と、意地を張ってプイと顔を背ける凜。琴音は肩をすくめて、ふたりをたしなめる。

「仲直りしようね? ママ、これからお仕事だから、ふたりの笑っているお顔に『いってきます!』がしたいな」
「ふぇ、う、うん。がんばりゅ」
「……レン、ごめんねぇ」

 必死に涙をこらえる蓮とツンデレな凜。ふたりのあまりのかわいらしさに、琴音の頬は緩んでしまう。

「さすが! ふたりとも偉い」

 保育園の前、ふたりはきちんと笑顔になって琴音に「いってらっしゃい」と力いっぱい手を振ってくれる。

「いってきます! 今日もがんばってくるね」

 寂しいけれど、ふたりとはしばしの間お別れ。ママから航空整備士の顔に切り替えて、琴音は保育園と同じ敷地内にある自身の職場に向かった。

(通勤はちょっと大変だけど、やっぱり職場内に保育園があるのはシングルの身にはありがたい)

 二十九歳の琴音は整備士の仕事をしながら、シングルマザーとして双子を育てている。正直、生活は楽ではないし、ひとりで仕事と双子の世話を両立していくのは本当に大変で……泣きそうになる瞬間も多い。
< 4 / 121 >

この作品をシェア

pagetop