ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「あれこれ噂されるのは苦手だから。彼がそう言うから、秘密で付き合ってたんだけど……つまりは私の存在を本命の彼女から隠すための方便だったのよね」

 琴音に『恋人はいない』と話していたのも、それが理由だったのだろう。

「本命はね、彼と同じ会社のCAさん。嫉妬心からどんな人か確かめに行ったんだけどさ、ものすごい美人で、三か国を操る才女。もう完敗って感じだった」
「舞さんだって素敵な女性です!」

 琴音は勢い込んでそう言った。誰がなんと言おうと、これだけは譲れない。舞は琴音の憧れの女性なのだから。

「あはは、ありがと~。でね、完璧すぎる彼女を前にした私は戦意喪失して身を引いたわけ。それから数か月して彼は結婚。奥さんになった人、誰だと思う?」

 クスクスと笑う彼女に、琴音は首をかしげる。

「その、CAの彼女……じゃないんですか?」
「私もそう思ったけど、違ったの。彼の実家は関西のほうでは有名な名士で、結婚相手は親が決めた、いいおうちのお嬢さん。私が絶対にかなわないと思ったCAの彼女ですら、あっさり捨てられちゃったのよ」

 舞は目を伏せ、小さく肩をすくめた。

「同じ職場で働いていると、身近な存在に思えてしまうけどさ……私たちが思う以上にパイロットってエリートなのよ。住む世界が違うって感じかな?」

 決して卑屈になっているわけではなく、実体験から得た舞の率直な意見なのだろう。
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