ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 現在進行形で、似たような経験をしているからこそ彼女の気持ちはよくわかった。

 琴音も、最初は黎治を手の届かない人だと、憧れのアイドルみたいな存在だと思っていた。でも、飛行機の話や航空業界の話題で盛りあがるうちに、どんどん彼を身近に感じるようになり、膨れあがる気持ちに歯止めがきかなくなった。

(でも、結局は遠い世界の人だったのかな)

 こうして整理してみると、手垢のついた陳腐な恋物語でしかない。高望みは実らない。当たり前じゃないか。

 舞は諭すような口調で続ける。

「とくに永瀬コーパイはパイロットのなかでも別格だから。噂だけど、BBLの社長は彼を自分の後継者に育てたいそうよ」
「いずれ経営者に、ということですか?」
「うん。社長自身も元パイロットだし。現場を熟知している経営陣を増やしたいって、社長の信念らしいわ」

 パイロットから経営幹部への道は珍しいが、ないわけではない。黎治なら不可能ではないだろう。ここで、舞は少し声をひそめた。

「そのために、自分の娘と彼を結婚させようとしてるって話もあるわ」

 CAたちが話していた縁談の話も、やはり真実のようだ。

(社長令嬢と結婚して、パイロット引退後は経営者に……。優秀な黎治さんにふさわしい完璧なキャリアだ)

 あらためて、彼とは住む世界が違うことを突きつけられた気分だった。
< 41 / 121 >

この作品をシェア

pagetop