ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「もし仮に……彼が琴音ちゃんに本気だったとしても、永瀬コーパイの立場でこの縁談は断れないと思うわ。それに、彼との関係が公になったら琴音ちゃんもこの職場にいづらくなるかもしれない」

 やや大げさな気もするが、舞の心配はまったくの杞憂でもないだろう。琴音のポジションなど、代わりの人材はいくらでも見つかる。

「今なら、まだ傷も浅いでしょう? 彼とは早く離れたほうがいい。琴音ちゃんには、私みたいな思いをしてほしくない」

 舞の言うことが正論だと、頭ではわかっている。だけど、琴音はなんの返事もできなかった。頭と心は別物だ。心はまだ……どうしようもなく痛くて、悲鳴をあげている。

 遊びでもいい、そんな大人ぶった恋は自分にはまだ早かったのだ。

 数日後。

 約束した店の前で、琴音は彼の背中を見つけた。職場関係者に見られないよう、空港から遠い新宿の街を指定したのは琴音のほう。

 どこにでもある、チェーンのカフェ。約束よりかなり早く着いたが、それは彼も同じだったようだ。

 琴音は声をかけようとしたが、彼が電話中であることに気がついて口をつぐんだ。

 静かな路地なので、会話が漏れ聞こえてくる。

「そう、挙式はロンドンだ。空港からも地下鉄ですぐだよ。うん、それは心配ない」
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