ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 舞に言われて初めて、自分の頬を涙が伝っていることに気がつく。

「やだな。なんで涙なんか……自分で決めたことなのに」

 止めようと思っても、次から次へとあふれてくる。心配そうな舞の顔も、大きな夕日も、涙でにじんで輪郭があやふやだ。

 黎治のキャリアのため、社長令嬢のほうがきっと彼を幸せにできる。

 この日の気持ちは決して嘘ではなかった。

 けれど……彼がイギリスに発ったあとで、琴音はようやく自身の心を正しく理解した。

 自分は結局、逃げたのだ。本気の告白を拒絶される恐怖から。もし一時的に選んでもらえたとしても、あとあと彼に後悔される可能性から――。

(沙里ちゃんと、それまで仲良しだった友達とも向き合わず、逃げ続けてばかりいたあの頃と……私はなにも変わっていない)

 無欲なふりをしているだけ。

(好きです。そのたったひと言を伝える勇気すら持てなかった臆病者、それが私の正体だ)
< 48 / 121 >

この作品をシェア

pagetop