ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
三 雨空に溶けゆく誤解
 三 雨空に溶けゆく誤解 


妊娠に気がついたのは、彼がイギリスに旅立ってしばらくしてからのこと。

結婚準備をしているはずの彼に連絡などできるわけがなく……かといって、授かった命を諦めることも考えられなくて、琴音はひとりで産み育てることを決めた。

 二年前、双子の産声を聞いたあの瞬間に誓ったのだ。

(弱い自分を卒業して、生まれ変わろう。私はふたりと一緒に、幸せになる)

 だから、彼との再会くらいで動揺していてはダメなのに……。まっすぐな黎治の眼差しは、琴音の心に嵐を起こす。

「頼むから……話をさせてくれ」

 記憶のなかにいる彼はいつも余裕たっぷりで、不敵に笑っていた。でも今は、切実な表情と声で訴えかけてくる。

(どうして、そんな目で私を見るの?)

 ベビーカーのハンドルをギュッと握り締めて、琴音はどうにか返事をする。

「あの、でも、子どもたちが」
「もちろん一緒で構わない」

 言いながら、彼はベビーカーの前にかがむ。

「はじめまして」
「……だれ~?」
「ママのお友達だよ」

 彼の笑顔は、どうやら子どもまで魅了してしまうようだ。蓮も凜もすっかり警戒心を解き、無邪気な声をあげている。
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