ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
結局、黎治の押しに負けて空港内のファミリー向けレストランに四人で入った。
(もし誰かに見られたら……いや、子どもが一緒だし、別にやましいことはなにも!)
黎治の妻である『桜さん』のことが、琴音としては気になって仕方がない。
「くまさん!」
「かあいいね!」
メニューに描かれた動物のキャラクターに双子は大はしゃぎだ。
恥ずかしい話だけれど、家計にあまり余裕がなくて外食はめったにできない。だから、ふたりにとってはファミレスも新鮮なのだろう。
「あっ、ママの!」
「おいしいやつ」
パンケーキの写真を指さして、ふたりは顔をほころばせる。
「ママの?」
不思議そうに首をかしげる黎治に、琴音が説明する。
「ホットケーキ、休日の朝ごはんの定番なんです。ふたりの嫌いなニンジンを混ぜても、気づかず食べてくれるから」
「なるほど。ふたりにとって、パンケーキはママの味なわけか」
黎治はふたりに目線を合わせて聞いてくれる。
「ママの味にかなうかはわからないけど、ここの店のもおいしいと思うよ。食べてみる?」
「うん!」
「たべりゅ~」
それから、はたと気づいたように黎治は琴音に顔を向ける。彼らしくもなく、弱ったような表情をしていた。
「……夕食の時間なのに、パンケーキはダメか? チョコソースがかかっているし、食事とは言いがたいよな」
チョコソースの有無を真剣に気にしている彼の姿がおかしくて、琴音は思わずふっと噴き出してしまった。
「大丈夫です。毎日だったら問題かもしれないけど、たまになら」
クスクスと笑う琴音をじっと見つめて、黎治は甘やかに目を細める。
「やっと、笑った顔が見られた」
「え?」
「それ、俺の大好物だから」
「あ、あの……」
人たらしな彼は、深い意図なくこういう発言をするのだろう。
でも、わかっていても……胸の高鳴りを抑えることは難しい。
(どうしよう。ドキドキなんて、してはいけないのに)
続いて、黎治はパッと輝くような笑みを双子に向ける。