ズルくて甘い包囲網～高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい～

　男性の先輩たちとも多少の雑談はするけれど、やはり恋愛とか結婚とかそういう話題は女性同士だからこそだったのだろう。舞がいなくなると、そういう華やいだ噂を耳にすることもなくなった。

　琴音の情報は三年前からアップデートされておらず、黎治は社長令嬢と幸せな結婚生活を送っているものと、たった今まで信じていたのだ。

　舞は琴音の情報源であると同時に、黎治との繋がりを知っている唯一の人でもあった。その彼女が去ってしまったので、琴音の産んだ双子の父親が黎治とは……ＢＢＬ関係者の誰も疑ってすらいないはず。

（でも、黎治さんは？　双子の年齢から察してしまうかも）

　高めの温度に設定されている暖房のせいか、焦りのせいか、背中をつぅと汗が流れた。

「……俺は今も独身だ。出向を終えてＢＢＬに戻ってきた。今度は、琴音のことを聞かせてくれ」

　黎治の声がより一層、真剣味を増して低くなる。

「君は地元に帰って結婚する。整備士はやめる。そう言っていたよな？」
「あ……」
「どうして今もここにいる？　シングルマザーになった経緯は？」

　答えられない琴音に、彼はもう一歩詰め寄った。

「もしかして、すべて嘘か？　俺がほかの女性と結婚すると信じて、妙な気を回した？」

　こんな展開になるとは思っておらず、琴音は固まってしまった。