ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
(弱い自分は卒業する。そう決めたから、黎治さんと、子どもたちと、しっかり向き合おう)

 琴音は大きく深呼吸をひとつしてから、枕元に置いてあったスマホを手に取る。再登録したばかりの黎治の番号を呼び出して〝発信〟ボタンを押した。


 翌日。今日は朝からあいにくの天気で、霧雨がシトシトと降り続いている。

 互いの休憩時間を利用して、彼と待ち合わせた。空港内のバックヤード、従業員用の自動販売機が並ぶだけのスペース。休憩用の椅子すらもないので、ほとんど人も来ない。

 換気用の小窓に当たる雨粒の音が響くだけで、とても静かだ。

「すみません、こんなところで」
「いや。早いほうがいいと無理を言ったのは俺だから」

 琴音には七歳年上の姉、乙葉(おとは)がいる。結婚して千葉県にマイホームを建てており、ひとり息子はもう小学五年生。

 琴音がシングルでどうにか双子を育ててこられたのも、いざというときはこの姉が育児も家事もサポートしてくれたからだ。

 今回も乙葉に双子を預かってもらって時間を作ろうかと考えたのが、黎治は昨日の電話で少しでも早く会いたいと言った。

(黎治さんの立場なら、それはそうよね)

 双子の父親が誰なのか気になって仕方がないだろう。その気持ちはよくわかるので、琴音はあいさつもそこそこに本題に入る。

「今日は、すべてを正直に話します」
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