ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 キャリアに産休・育休を挟んでいる琴音はまだライン整備士だけれど、いつかはショップ整備を担えるようになるのが夢だ。

(お休みしていた期間のぶんまで、これからバリバリがんばらないと!)

 決して目立つ仕事ではないが、空の安全を支える縁の下の力持ち。やりがいは十分、なにより幼い頃から飛行機が大好きだった琴音には天職だ。

 制服であるグレーのオールインワンに身を包み、頭には白いヘルメット。仕事を始めればすぐに油汚れがついてしまって、CAやグランドスタッフのような女性らしい華やかさとは縁遠いけれど自分には似合っていると思う。

「池田! 次はそっちな」
「はい、了解です」

 最近は女性整備士も増えてきたが、やっぱりまだまだ男社会だ。「これだから女は……」とだけは言われないように気をつけている。
 幸い、今の職場の人間関係は良好だ。女だからと特別扱いされることもなく、みんなニュートラルに接してくれる。

「よし、ばっちり! 今日もお客さまを安全に送り届けてきてね」

 整備を終えた機体に、琴音はそんなふうに声をかけた。札幌へと飛ぶ予定のこの機体は、これから機長に引き渡すことになる。
 ふぅと息を吐き、琴音は空を見あげた。今日は気持ちのいい秋晴れで、青空の真ん中で太陽がキラキラと輝いている。
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