ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
『まずは距離を縮めることから始めたい。琴音とも、子どもたちとも』

 彼はそんなふうに言ってくれた。

 琴音の思い込みで、結果的に彼から子どもたちを奪っていたようなものなのに……黎治はいっさい責めたりせず、琴音と子どもたちに寄り添おうとしてくれている。その気持ちが嬉しい。

『はい、蓮と凜もきっと喜ぶと思います』

(黎治さんは、ふたりのパパだもの)

 以来、黎治は時間を見つけては琴音たちの暮らすマンションに遊びに来てくれるようになった。

「狭い部屋でくつろげないですよね」

 広くはないリビングを有効活用するためにソファは置かず、ローテーブルにクッションというスタイルにしている。だが、床に座る日本式スタイルは足の長い彼には窮屈そうだ。

「いや、自分の部屋よりここのほうがずっと落ち着く。甘くて優しい、琴音の匂いがするし」
「に、匂いには! 言及しないでください、ものすごく恥ずかしいので」

 赤面して小さくなる琴音に、彼はどこまでも優しい眼差しを注ぐ。

 黎治のマンションのほうがずっと広くて快適なのだろうけど、彼は『子どもたちがリラックスできる場所が一番』と考えてくれているようだ。

「レイしゃん、これよんで~」
「よんで!」

 お気に入りのお化けが出てくる絵本を手に、蓮と凜が黎治に近づく。当たり前のように彼の膝に座る姿が、あまりにも愛らしくて……琴音の頬は無意識に緩む。

(こうやって並ぶと、やっぱりよく似てる)

 絵本を読む、彼の落ち着いた声に琴音もついつい聞き惚れてしまう。

「もっとよんで! つぎはね~」

 積極的な凜が黎治に二冊目をねだる。三人は本棚の前で次の絵本を吟味しはじめた。

「……表紙の飛行機率が異常に高いな」

 黎治は笑いをこらえるように、こぶしで口元を押さえている。琴音は小さく肩をすくめて弁解する。
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