ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「琴音さんは整備士さんなのよね? 和志くんは空港で会ったことがあるの?」

 桜が和志に顔を向ける。
「う~ん。多分『はじめまして』じゃないかなぁ」
「だと思います」

 首をかしげる和志に琴音も同意する。彼に機体を引き渡したことは、ないように思う。

「パイロットも整備士も人数が多いから。ある意味、一期一会だな」

 黎治の言葉に桜は「なるほど~」と納得している。

「けど不思議なもんで、苦手に思っている先輩ほど何度もペアになるんだよね」

 和志がおおげさに肩をすくめると黎治がプッと噴き出す。

「わかる、わかる。印象の問題じゃなく、本当に当たってるんだよ」
「新人の頃は自分が嫌がらせされてるんじゃないかって病みそうだった」

 選りすぐりのエリートであるパイロットたちも、仕事の愚痴は琴音たちとそう変わらないようだ。

(同期といるときの黎治さんって、こんな感じなんだ。なんか新鮮かも)

 これまで知らなかった彼の顔が見られて、すごく得したような気分になる。

 話題は気ままに移り変わっていき、和志と桜のなれそめに行き着く。

「父が主催したなにかのパーティーに和志くんが来てくれて、そのときに一目惚れしたの! 世の中には、こんなにかっこいい男性がいるんだって衝撃だったなぁ」

 目をハートにして、桜が和志の魅力を饒舌に語る。けれど、隣で聞いている和志は居心地悪そうにどんどん小さくなっていった。
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