高嶺のパイロットは、秘密の双子とママを愛で倒す~地味な私が本命だなんてホントですか?~
 和志がそう諭しても、桜はちっとも納得できない様子だ。

 ほのぼのとした夫妻のやり取りに、琴音と黎治は顔を見合わせてプッと噴き出す。

「そんなわけで、社長はしばらく桜と黎治の縁談を斡旋するつもりで動いていてね。途中で間違いに気づいて軌道修正したものの、社内での噂はそのまま残っちゃったんだよ」

 和志は小さな声で『正式に結婚したあとですら、嘘だろ?って言われ続けたし』とぼやいた。

(なるほど、そういうことだったのね)

 日本に戻ってきた和志と黎治が自分たちの口で真実を告げたことで、ようやく誤解は一掃されたらしい。

 桜の手料理はどれも絶品だが、ふわふわ玉子のサンドイッチがとくにおいしい。

 和志もこれが好物のようで、次々と口のなかに放り込んでいく。ハムスターのように頬を膨らませながら、彼は黎治に聞く。

「そういえば、例の雑誌の取材はどうするんだ?」
「どうもこうも、上からの命令だからな。断る権利はなさそうだ」

 黎治は苦笑して、グラスの残ったシャンパンを飲み干した。

「取材?」

 琴音が首をかしげると、彼が答えてくれる。

「あぁ。航空専門誌がパイロットのキャリアについての記事を書きたいとかでね」
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