高嶺のパイロットは、秘密の双子とママを愛で倒す~地味な私が本命だなんてホントですか?~
 今日の目的は新生活に必要な家具を揃えること。当初は双子も連れて四人で行くつもりだったけれど、話を聞いた琴音の姉が『子どもが一緒じゃ、大きな買いものは無理よ!』とふたりを夜まで預かってくれることになったのだ。

「大人だけでゆっくりランチなんて久しぶりだなぁ」

 軽くランチをして、それから大型の家具店へ。それが今日のプランだ。

「中華を予約したんだが、よかったか?」
「はい! 私、辛いもの大好きなので楽しみです」

 満面の笑みで琴音が答えると、彼は楽しそうに目を細めた。

「知ってるよ。だから四川風の店にした」
「え?」

 自分が辛党であること、彼に話したことがあっただろうか。

 琴音の疑問に答えるように黎治が説明してくれる。

「昔、従業員食堂の麻婆豆腐の話をしたことがあっただろう?」

 言われて、琴音も三年前の彼との会話を思い出す。

 日替わり定食でたまに出る麻婆豆腐、食堂らしからぬ本格派の味でかなり辛いのだ。

 それが大好きだという話を、そういえば彼にしたことがあった。

(あんな他愛ない話題を、覚えていてくれたんだ。それで中華料理の店を……)

 胸がほっこりと温かくなる。

「あの麻婆豆腐、すごくおいしいのに、いつの間にかメニューから消えてしまいましたよね」

 琴音の台詞に、彼は苦笑して答える。

「辛すぎると、あまり評判がよくなかったみたいだぞ」
「えぇ? そうだったんですか?」
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