高嶺のパイロットは、秘密の双子とママを愛で倒す~地味な私が本命だなんてホントですか?~
 親しげにそう声をかけてきたのは、かつてクラスメートだった〝沙里ちゃん〟だった。

 都会的に洗練されたけど、あの頃と面影もちゃんと残っている。

「うふふ。全然変わってないね~琴音ちゃん。大人になってまで飛行機好きだなんて、ウケる!」

(あぁ、この笑い方も変わっていないな)

 琴音を見くだすような笑み、彼女を前にするとどうしても身体がこわばってしまう。

「琴音ちゃん、久しぶりの再会だしお酒でも飲みに行かない?」
「ごめんね。このあと、用事があるから」

 蓮と凜を迎えに行くという大切な予定だ。けれど、彼女は強引に引きさがってきた。

「じゃあ十分だけ! 立ち話でいいから。ね?」

 沙里は昔からこんなふうに圧が強くて、琴音はいつも言い返せずにいた。それは今も同じ。琴音は腕時計を確認して、小さくため息をつく。

(いつものお迎え時間より、まだ十五分早い)

「じゃあ、十分だけ」

 そのくらいなら、保育園に心配をかけることもないだろう。

「ありがと。琴音ちゃん、優しいから好きよ」

 琴音の思ったとおり彼女は航空専門誌の記者で、今、黎治の取材をしているそうだ。

「もともとはトラベル誌の担当だったの。海外の高級リゾートの記事を書いててね。なのに、急に! 意味のわからない異動で、なんなの航空専門誌って?」

 どうやら不本意な異動だったようだ。
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