ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 沙里を前にすると、どうしても蘇ってきてしまう。人とぶつかることを恐れてコミュニケーションを遮断していた、意気地なしだった頃のこと。

 過去の自分に引き図られそうになるのを必死にこらえて、琴音は前を向く。

「今の台詞は撤回してくれないかな?」

 沙里に意見するなんて初めてで、声が震える。けれど、どうにか言葉を紡いだ。

「飛行機の安全な運航には、CAも整備士もなくてはならない仕事なの。どっちがどうとか、比べるのは失礼だと思う」

 彼女の発言は整備士だけでなく、CAの仕事をも馬鹿にしているように思えた。

(きっと、表面しか見ていないんだ……)

 彼女たちは美しく着飾って接客をしているだけではない、いざというときは乗客の命を守るために危険に立ち向かう。パイロットもCAも、そして整備士も……人命を預かる誇り高い職業なのに。

 沙里の表情が一瞬にして冷たいものに変わる。

「はぁ? 面倒くさ~い。その空気が読めないとこ、ほんと変わらないね。――とにかく!」

 背の高い彼女が強気に琴音を見おろす。

「琴音ちゃんの出る幕じゃないの。黎治さんと結婚するのは私だから」
「な、なにを根拠に……」

 たしかに沙里は美人だ。

 だけど、黎治は女性を容姿だけで判断する人じゃない。取材をしたなら、そういう彼の内面だって伝わりそうなものなのに。

 どうして彼女はこんなにも自信満々でいられるのだろう?
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