ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
(元気そうでよかった。〝偶然〟は、きっとこれが最後ね)
同じ職場、グループ企業同士。その響きだけだとすごく近しい関係のように聞こえるけれど、この首都国際空港を職場とする人間はなんと五万人もいる。
BBL航空所属のパイロットは六千人、CAは八千人、琴音たちBBL専属の整備士も千人以上。あまりにも人数が多いので、この業界では一度も顔を合わせたことのない同僚がいるのは当たり前なのだ。
〝さようなら。どうかお幸せに〟
心のなかで彼に告げて、琴音は歩き出す。が、次の瞬間グッと強く手を引かれた。
「――琴音」
「え?」
反射的に振り返ると、思っていたよりずっと近くに懐かしい彼の笑顔があった。不敵で色っぽくて、でも瞳はとびきり優しい。
「元気そうだな。ここ、黒くなってるぞ」
三年の年月なんてまるでなかったみたいに、彼はごく自然に手を伸ばしてきて琴音の鼻の頭を拭った。
(え、え?)
戸惑いに目を瞬く琴音を見て、黎治はおどけたように肩をすくめてみせる。
「薄情だな。もしかして覚えていないのか?」
「……そ、それは黎治さんのほうかと……」
自分が彼を忘れることは絶対にない。それだけは断言できる。
黎治はグッと顔を近づけ、熱っぽい眼差しを琴音に注ぐ。
もう思いを寄せることすら許されない人だとわかっているのに、彼の瞳はどうしようもなく琴音の胸を揺さぶる。
同じ職場、グループ企業同士。その響きだけだとすごく近しい関係のように聞こえるけれど、この首都国際空港を職場とする人間はなんと五万人もいる。
BBL航空所属のパイロットは六千人、CAは八千人、琴音たちBBL専属の整備士も千人以上。あまりにも人数が多いので、この業界では一度も顔を合わせたことのない同僚がいるのは当たり前なのだ。
〝さようなら。どうかお幸せに〟
心のなかで彼に告げて、琴音は歩き出す。が、次の瞬間グッと強く手を引かれた。
「――琴音」
「え?」
反射的に振り返ると、思っていたよりずっと近くに懐かしい彼の笑顔があった。不敵で色っぽくて、でも瞳はとびきり優しい。
「元気そうだな。ここ、黒くなってるぞ」
三年の年月なんてまるでなかったみたいに、彼はごく自然に手を伸ばしてきて琴音の鼻の頭を拭った。
(え、え?)
戸惑いに目を瞬く琴音を見て、黎治はおどけたように肩をすくめてみせる。
「薄情だな。もしかして覚えていないのか?」
「……そ、それは黎治さんのほうかと……」
自分が彼を忘れることは絶対にない。それだけは断言できる。
黎治はグッと顔を近づけ、熱っぽい眼差しを琴音に注ぐ。
もう思いを寄せることすら許されない人だとわかっているのに、彼の瞳はどうしようもなく琴音の胸を揺さぶる。